【題名】
ショウジョウバエを透して視るインテグリン細胞接着の世界

【発表者】
井上 淑子 
Wellcome Trust/Cancer Research UK Gurdon Institute and Dept of Physiology,
Development & Neuroscience, University of Cambridge, United Kingdom



【日時】
2010年4月25日(日) 15時00分~17時00分



【場所】

Graduate Union, 17 Mill Lane, Cambridge (Silver Street の角の入り口のほ
うから会場に入れます)



【発表要旨】
私たちの体は数多くの細胞から構成されていますが、これらの細胞を適切につな
ぎ合わせておくために必要不可欠な「糊」が細胞接着です。私たちヒトを含めた
多細胞生物はさまざまな種類の細胞接着を使い分けて体の構造を保っています
が、その最も基本的なもののひとつがインテグリン接着です。

インテグリンは細胞膜を貫通するタンパク質で、細胞の外側にあるコラーゲンな
どの細胞外基質と内側の細胞骨格をつなぐアンカーの役割をしており、血球等一
部の細胞を除いてほぼ全ての細胞に存在しています。近年の研究において、イン
テグリン接着を制御したり細胞の内側から支えたりするタンパクの種類は100 を
超えることが示唆されています。なぜそんなに多数の異なった種類のタンパクが
必要なのでしょうか?ひとつの答えは、インテグリン接着が細胞によって違う、
多様な機能を果たしていることです。たとえば、骨や筋肉では安定した強い細胞
接着が必要ですが、白血球の遊走等には血管壁への一時的で素早い接着が必要で
す。接着の強さや接着/解除のサイクルの速さはどのように制御されているのか
が興味深い点です。

私の所属する研究室ではショウジョウバエを用いて、多細胞生物に普遍的なイン
テグリン接着の構成要素の機能を探っています。ショウジョウバエは生物学の研
究に古くから使われている実験動物ですが、発生期間が短いこと(約10日)や、
体を形作る基本的なタンパクはほ乳類とも共通していること、さらに世界的な研
究室間のネットワークにより遺伝子突然変異体など有用な系統が入手可能なこと
から、生体内での遺伝子の機能を調べるのにたいへん好都合です。さらに近年で
は蛍光タンパク(GFP)を遺伝子導入したハエを使って、生体の中でタンパクが
どのように機能しているかリアルタイムで見られるようになりました。最新の技
術を駆使して、インテグリン接着を構成する要素の分子比など、他の生物ではま
だ調べられていない基礎的な疑問に答えようとしています。

トークの中では、ハエの遺伝学やGFPライブイメージングを可能にする顕微鏡観
察など技術的な面にも触れ、生物学にあまり馴染みのない方にも分かりやすいよ
う、また全ての方に、私たちの体の中にある細胞接着というものの不思議を感じ
ていただければと思っています。