【題名】
聖なる言語と多重声の祈り:西欧中世における聖書翻訳

【発表者】
井口 篤 氏(英文学)

【日時】
2006年11月11日(土) 19時45分~21時

【場所】
Seminar room, No1. Newnham Terrace, Darwin College

【発表要旨】
ある言語単位を一つの言語から他の言語へ移し変えるということはどういうことなのか?それはそもそも可能なのだろうか?これらの問いは、中世の聖職者たちを長く悩ませてきたが、それはラテン語にもっとも高い地位が与えられていたためであった。ラテン語は聖書の言語であり、訓練を受けた聖職者のみが扱うことを許された、神聖不可侵な言葉であった。それゆえ、教会は平信徒の手からラテン語を注意深く(そして嫉妬深く)守ろうとした。このため、ラテン語聖書を母語に翻訳するということは教会の権威を侵害する可能性があり、そしてそれは十五世紀初頭のイングランドでついには禁止されてしまうに至った。
本発表においては、ラテン語が読めない人達のためにラテン語聖書―一般にはウルガタと呼ばれている―を翻訳しようとした人達が直面した非常な困難について考えたい。そうすることによって、中世において聖書翻訳が持っていた政治的側面を指摘し、そして、より一般的には、翻訳が本質的に矛盾に満ちた行為であることを明らかにできればと思っている。