【題名】
量子情報 ― 科学と哲学のはざまで ―

【発表者】
大島 利雄 氏

【日時】
2005年5月28日(土) 19時30分~21時30分

【場所】
Meeting Room, Clare Hall

【発表要旨】
情報科学の基礎が確立されてから半世紀以上たった。アラン・チューリングの計算の理論とクロード・シャノンの通信の理論である。これらの理論は道具としても強力で、また現実の装置の機能や限界をきわめて忠実に説明できたので、別の新しい情報理論の必要性を唱える者はほとんどいなかった。
ところが20年ほど前から、従来の情報理論に完全には満足できない科学者が少しずつ出てきた。例えばリチャード・ファインマン、デビッド・ドイチュ、そして チャールズ・ベネットといった物理学者である。問題は以下のとおり。
『チューリング/シャノン流の情報理論では情報の基本単位はビットであり、これはいわば古典力学における巨視的変数とみなせる。一方、20世紀になって明らかになったように、我々の物理世界の正しい記述は古典力学ではなく量子力学でなければならない。』
この素朴な疑問から出発した研究は今、量子情報と呼ばれ若い物理学者や計算機科学者の間で人気のある分野となっている。ケンブリッジでは応用数学理論物理学科の中にある量子計算センタに多くの優秀な研究者が集まり基礎概念から応用に至るまで幅広く研究が行われている。センタを引っ張るのは量子情報の一分野である「量子暗号」の先駆者であるアーター・エカート教授である。驚くことに、量子情報で解明された事実のなかには長年の哲学上の課題に新しい光を当てるものもある。今回の講演では聴衆に数学や物理の専門知識を仮定せずに量子情報の基本的考え方を説明したいと思う。