【題名】
情報科学は理系か文系か?

【発表者】
芳賀 博英 氏

【日時】
2005年4月28日(土) 19時30分~21時30分

【場所】
Richard Eden Room, West Court, Clare Hall

【発表要旨】
本発表では情報科学は理系か文系かという点を通して、情報の科学さらには創造(creation)に関する考察について少し述べてみたい。そしてその中で編集という行為の重要性について言及する。
日本では情報科学(Information Science)はコンピュータ科学(Computer Science) とほぼ同じ意味に使われており、理工系の学部に設置されている場合がほとんどである。しかしそれは本当だろうか?情報科学あるいは情報を扱う機構である情報システムというものにはコンピュータが必須なのだろうか?
歴史を見てみると、すでに昔から「情報システム」は数多く存在していた。たとえば奈良の東大寺の大仏と各国に置かれた国分寺はホストと端末という風に見ることが出来る。またバチカンが作り上げた宣教師のネットワークは、世界レベルでの情報システムと言える。このように昔から情報システムは存在していたのである。
それでは情報科学の本質とは何だろうか?それにはまず情報とデータの違いに着目する。データと情報は区別無しに使われることが多いが、私見ではデータとは客観的な事実であり、情報とはそのデータに解釈を加えたものであると考える。したがって情報とは極めて属人的な存在であり、機械処理しか出来ないコンピュータには本質的に「情報」処理は不可能であると考える。では情報処理の基本は何だろうか?私はそれをコミュニケーションであると考える。データに意味を与えたものが情報であり、意味を与える主体が人間である限り、その人間に解釈の力を授けるのは、コミュニケーションである。コミュニケーションを通して人間は自らの解釈の幅を広げることが出来る。従ってコミュニケーションこそが情報処理の本質であると考える。
次に情報処理の中で重要な役割を果たす「創造(creation)」について考える。私の基本的な立場は「無から有は作れない」という立場である。創造の大部分は既存のいろいろな情報を切り貼りして、そこに新しい価値を見いだすことである。従って情報の創造には、情報の収集とその編集(editing)が重要な役割を果たす。まず収集についてはすでに現在では多くのツールがあり、それほど困ることがないのは周知の事実である。従って現代の情報システムに必要なものは編集の機能である。編集とは、該当する対象の構造を解釈しそれを新たな意匠のもとで再構築することである。つまり編集は情報の分割(文節化)と関係の発見ということになる。編集とは通常は新聞や雑誌あるいはweb pageのデザイン等の意味で使われることが多いが、より広く深く日常生活に浸透している概念である。また歴史の中にも数多くの編集の産物を見いだすことが出来る。そして編集操作こそが真の情報処理であると考える。編集という行為を通して、我々は新しい価値を創造しより豊かな生活を営むことが出来るのであると考える。
ということで、タイトルの問い「情報科学は理系か文系か?」に対する回答としては「情報科学はそのような枠ではめられるものではない。むしろそのような枠を設けること自体が誤りである」ということになる。