【題名】
トルコの大地の「ギリシャ」的な過去:ペルガモン・ゼウス祭壇返還運動における「場所」の役割

【発表者】
田中 英資 氏

【日時】
2005年3月19日(土) 19時30分~21時30分

【場所】
Meeting Room, Clare Hall

【発表要旨】
本発表では、トルコによる古代ギリシャ時代の文化遺産の返還運動における「場所」の役割について考える。 ユネスコの世界遺産指定などにもみられるように、近年、文化財・文化遺産とみなされる考古学的もしくは歴史的な遺跡、遺物の保全・保護は、国際的にみて非常に重要な課題のひとつとなってきている。この文化遺産保護の一環として、盗掘などによる違法な文化財の持ち出しの防止、また不法に持ち出された文化財の返還が挙げられる。これは、考古学的、歴史的な価値のある遺跡・遺物が国民・民族の歴史・過去を具体的に表現し、保存しているという意味で、一般に国民・民族アイデンティティの生成に非常に重要な役割をはたしていると考えられていることが大きな背景にある。
トルコ国内では、古代ギリシャ・ヘレニズム時代の考古学的・歴史的な文化財が数多く発見されている。そして、トルコの隣国ギリシャではそうした古代ギリシャ的な文化財は、現代ギリシャ人の「ヨーロッパ人」意識を形作るうえで非常に重要視されている。しかし、トルコ政府はトルコ国内から発見される文化財はすべてトルコのものであるという見解であり、トルコ国外への違法な文化財の持ち出しを厳しく規制している。また、特に1980年代以降、および盗掘などにより国外に持ち出されて、欧米の博物館に展示されている文化財の返還に力を入れている。しかし、トルコ政府が所有権を主張しているものの中には、むしろ「ギリシャらしさ」と結び付けられる古代ギリシャ、ヘレニズム時代の彫刻・装飾が含まれている。この意味で、トルコによるこうした直接的に「トルコ」的とみなされにくい文化遺産の返還の主張は、考古学的・歴史的遺物と国民・民族意識の結びつきを直接的に反映していないのではないだろうか。
トルコによる、「ギリシャ」的な文化財の所有権の主張を説明するために、本発表では、トルコがそうしたものが「発見された場所」であるということに着目する。19世紀にあるドイツ人技師によって発掘され、現在はベルリンのペルガモン博物館に展示されているペルガモンのゼウス祭壇に対するトルコの返還要求を事例としてあげながら、本発表では以下のような問いについて検討していく。
・「ギリシャ」的な過去を表わすと考えられる古代ギリシャ時代の文化財 を、トルコが所有する意義はどのようなものか?
・そうした「ギリシャ」を連想させる文化財に対するトルコ側の所有権の 主張のなかで、「発見された場所」ということがどのように表現・説明 されているのか?
・「発見された場所」という概念が文化遺産の所有権意識の生成にどのよ うに関わっているのか?